それはそれは、暑い日の午後であった。男は、スーパーマーケットから、NX650で帰宅する途上であった。
 幹線道路から抜ける右折の交差点で、男は、奇妙なものをみたのだった。
しきりに車が行き交う道だというのに、1羽の鳥が、車線上に止まったままだったのだ。車に轢かれてもしようがない位置である。
 信号が変わったので、男は、右折をやめて、鳥の立ち止まっているところのそばに、NX650を止めたのだった。その鳥は、雉鳩で、あいかわらず、道の上で、首を上下に振るばかりで逃げようとしない。男は、車道から鳩を移し、歩道に置いてみたがあいかわらず、首を振るばかりで動かない。
 そこで、男は、鳩をカバンにいれて持ち帰ることにした。

 そして、家に帰ると、洗濯かごをひっくり返して、水を入れた器とともに、浴室の前の脱衣場に置いたのだった。あいかわらず、鳥は、熱中症なのか、洗濯かごの中でも、首を振ったまま立っているだけであった。
 とりあえず、夕食の時間となったので、男は、鳩をどうしようかと思案しながら食事をした。猫のお医者は知っているが、鳥のお医者は、知らないしなぁ、どうしたものかと。

 夕食をすませて、男が洗濯籠を除くと、どうやら鳩は、熱中症が治ったのか、首を振るだけで、足は動かなった以前の状態とは違って、動けるようだった。そこで、籠をあけると、鳩は、バタバタと飛んで逃げようとするのだった。男が脱衣場の窓をあけてやると、鳩は一目散に裏山の林の方へ、飛び去っていった。
 男は、なんだか名残惜しいような気もしたが、ちょっぴりいいことをしたという気分になったのだった。

それから幾日かたって
 男のところへ、うら若き女性が訪ねてきたのであった。まるで、鳩のような全身、曲線美の麗しき女性である。男が用件をたずねると、女は、こう言うのであった。
 ”貴方様は、ご存知ありませんが、私は、あなたに大恩を受けました。聞けば、貴方様は、独身とか。よろしければ、私を妻にして下さいませんか。それがならぬならば、そばにおいていただくだけでもかまいません。”と。
 男は、面識のない女の言いようをいぶかしんだが、なにしろ、大変な美人である。そこで、二の句をつかずに、”お嫁になってください。”と即答したのだった。
 その後、伝え聞くところでは、男と女は、仲睦まじく平穏無事にくらしたとさ。

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以上の話は、いくらかは事実であり、いくらかはフィクションに違いない。