Fair Game(USA/2010)220px-Fair_Game_Poster

監督:ダグ・リーマン

脚本:ジェズ・バターワース、ジョン・バターワース

出演:ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン

配給:サミット・エンターテイメント

公式サイト

評点(5点満点)

5star

ストーリー

物語は、ジョージ・W・ブッシュの第1期である、2002年から始まる。バレリー・プレーム(ナオミ・ワッツ)は、CIAの秘密作戦要員で、身分はパブリックにはなっていなかった。夫は、リタイアした外交官のジョー・ウィルソン(ショーン・ペン)で、2人の子供とともに、ワシントンDC郊外にすんでいた。当時、ブッシュ政権は、イラクと開戦する正当な理由となる、イラクのWMD(大量破壊兵器)開発計画について証拠を集めていた。CIAも、イラクのWMD開発計画について調べていた。そして、CIAのイラクのWMD開発計画についての調査チームは、バレリーが率いる事になる。外部(UK)からの情報で、”イラクがナイジェリアから、イエローケーキ(原爆の材料のひとつ)を入手しようとした。”というものがあり、CIAは、ナイジェリアにコネクションのあるジョー・ウィルソンにナイジェリアに調査に行ってもらうことにした。ジョー・ウィルソンがナイジェリアで調べたのは、500トンものイエローケーキの輸出を、USとの関係をリスクにさらしてまで、ナイジェリア政府が容認することは、ほとんどありえない、というものだった。その他のCIAの調査もすべて、イラクのWMD開発計画の存在を否定するものばかりであった。これらは、ホワイトハウスの望んでいた回答ではなかった。それにもかかわらず、20031月のUS議会での大統領によるステート・オブ・ユニオン演説では、”イラクがアフリカから、ウランを購入しようとしていた。”という文言が含まれていた。また、20032月のコリン・パウエル国務長官による、国連安全保障理事会の演説でも、同様の文言が含まれていた。当時、CIA自身がアフリカ・コネクションのウラン購入は、ガセネタである、という見解であったにもかかわらず。

そして、320日に、イラク戦争は始まった。(フセイン政権は、4月には打倒される。)6月には、どうやらイラクにWMDはなさそうだ、ということがわかってきた。7月にジョー・ウィルソンは、ニューヨークタイムズの読者投稿で、”私が、アフリカで見つけなかったもの”という記事を書く。これは、この戦争の正当性について批難を浴びている政権にとって痛撃となるものだった。

そこで、副大統領のチーフスタッフであるルイス”スクーター”リービーは、ウィルソンに報復する為にバレリーの身分をばらすことにした。(CIA秘密工作員の名前を明らかにすることは重罪になる)そして、それは、ウィルソンの記事がでたわずか8日後に、シカゴ・サンタイムズに載った。これは、事実上、バレリーのCIA秘密工作員としてのキャリアに終わりを打つものになった。そして、その日からが、バレリーにとっての悪夢の日々の始まりだった。

 

コメント

この映画は、バレリー・プレームとジョー・ウィルソンがそれぞれ書いた本をもとに作られている。私は、どちらの本も読んでいない。バレリー・プレームのCIA時代の職務内容は、基本的に機密内容で、本や、議会公聴会での証言以外は不明である。ナオミ・ワッツの起用と演技はぴったりで非常によい。ショーン・ペンのジョー・ウィルソンも好演だ。惜しむらくは、ディック・チェイニー役の人がちっともチェイニーに似ていないので、わからなかったくらいだ。

ちなみに、この映画の公開のわずかまえに、ブッシュ前大統領の回想録が発売され、それにあわせて、前大統領がTVインタビューに出まくっている。結局、CIAの要請で司法省による司法調査が行われ、”スクーター”リービーは、起訴され、2件の大陪審での偽証、1件の司法妨害、1件の連邦捜査官に対する嘘の証言で、有罪となった。肝心のCIA秘密工作員の身分を明かしたことについては、起訴されていない。また、副大統領ディック・チェイニー、大統領スタッフ カール・ローブ、国務次官リチャード・アーミテージの関与も深く疑われたが、いずれも、起訴はされなかった。ウィルソン夫妻によるデイック・チェイニーらに対する民事訴訟も、オバマ政権の方針で文書が公開されないこともあり、最高裁までいったが却下になっている。

この映画は、判明している事実からは、大きく逸脱していないほとんどノンフィクションに近い内容となっている。

別のところで読んだ話では、ブッシュ政権の末期に、副大統領は、有罪となったリービーに恩赦をするよう大統領に求めたが、ブッシュ大統領は、断ったそうである。もし、恩赦してれば、まったく救いがない話だ。

 

 

結論

ナオミ・ワッツの好演もあり、最後までみさせる。映画としても、108分の中で、必要なことがらをコンパクトにまとめていて完成度は高く、視聴者(US有権者)の政府への怒りをかきたてるような内容である。真実との差は、マイナーなレベルでCIA勤務の実体が機密指定な為不明だが、それを除けば、映画としては、実現可能なレベルをすべて達成しているのではないだろうか。

さて、わが国でも、尖閣諸島漁船衝突事件の秘密指定のビデオがリークしているが、これに対応するアカウンタビィリティのある説明はあるのだろうか? 国家公務員法の守秘義務違反は、裁量で不起訴にしていいような内容ではないし、あけてみれば、なんということもないビデオを非公開にしていたことの説明も必要である。

これがUSであれば、ACLUなどが、内閣を相手取って、あけてみれば何の事もないビデオを非公開にしていた公開質問状をだしていることは、間違いない。日本は、システムとしての民主主義の成熟が問われている。

 

参考サイト



 

注:この映画は、日本公開は未定。fair gameとは、俗語で、かっこうの的という意味。この言葉は、一連の出来事の中では、大統領スタッフのカール・ローブが最初に使ったとされている。

 

注2: バレリー・プライムのFair Gameは、機密にひっかかる部分は、グレーアウトされていて、それが、全体に散らばっている、ちょっと異様な本である。これは、出版前に、CIA,弁護士などと相談してのことと思われる。


注3: バレリー・プライム・ウィルソンの議会公聴会証言のビデオは、www.cspan.orgで、見ることができる。


 注4: 上記文中のナイジェリアの記述は、ニジェールの間違いでした。謹んで、訂正します。


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PS  本作は、2011年10月29日に、日本公開予定。